LSスペシャルインタビュー

初代を超える衝撃 取材・公開日 / 2018.01

旭利夫
Lexus International
製品企画チーフエンジニア

11年ぶり、満を持してのフルモデルチェンジ

1989年、アメリカに新世代の高級車が彗星のごとく現れた。名はレクサスLS。メイド・イン・ジャパンの圧倒的な品質を武器に、ラグジュアリーブランドとしての地位を確立した。代を重ねること2006年、故国に凱旋するかたちで日本デビュー。そこから数えて11年ぶりのフルモデルチェンジを受け、5代目に進化した新型LSの開発について、レクサスインターナショナルの旭利夫チーフエンジニアはこう切り出した。
「高級車に対する従来の概念や枠に捕われない、レクサスとして唯一無二の存在にする。その思いで開発を進めました」

旭氏は初代LSに憧れてエンジニアの道を志した。電子制御の先進技術なくしてクルマを語れない時代、その分野のエキスパートとしてレクサスの開発に携わるようになる。新型LSのチーフエンジニアに抜擢された際は、マスタードライバーを務める豊田章男から「初代の衝撃を超えたクルマを」と言われ、その言葉を心に刻み、開発を進めたという。
それにしてもなぜ先代からフルモデルチェンジするまで11年もかかったのか。
「理由は大きく3つあります。まずラグジュアリーに対する考え方がこの10年で大きく変化したこと。モノの所有よりも経験、モノが発信するストーリーがより重要視されるようになってきました。2つ目はレクサスのクルマづくりが数値では表せない感性性能の追求であること。3つ目はレクサスのフラッグシップとして全面変更する以上、革新的かつ新しい価値観を提案する必要があったからです。こうした時代背景や課題をクリアするには相応の時間が必要で、今回は文字通り満を持してのフルモデルチェンジになりました」

新型LSの開発が本格的に動き出そうとしていた頃、ラグジュアリークーペLCの市販化が決定した。かくしてレクサスはセダンとクーペ、2つのフラッグシップを並行開発することになる。

LS初の6ライトを用いたクーペシルエット

新型LSは、優れた静粛性や快適性など、初代から継承されるLSのDNAを大切にしながら、大きな変革を果たした。その象徴がSensual Aggressive(センシュアル・アグレッシブ)をテーマにしたスタイリングだ。車両の後部を滑らかに傾斜させた、いわゆるクーペに見えるシルエットを採用した。
「クーペシルエットにすると後席の居住性が犠牲になりがちですが、新型LSはクーペシルエットでも十分な広さを確保しました。言葉にすると簡単ですが、クーペの美しさと高級サルーンとしてのくつろぎの空間を両立するのは大変です。様々な検討を進める中で出てきたのが6(シックス)ライトキャビンです」
6ライトとは、リヤドア窓の後方に小さな三角形の窓を設けた構成のこと。窓の総数が両側で6枚になることからそう呼ばれる。特段目新しい手法ではないが、LSにとっては史上初。流麗なクーペシルエットが実現できたのも6ライトによるところが大きかったという。

さらにクーペシルエットの躍動感を際立たせるために、新しいボディカラーを開発した。レクサス独自の塗装技術を進化させ、金属を削り出したような印象を与えるマンガンラスター、鮮やかさと深みのある陰影を両立したソニックアゲートの2色だ。こうした美しさの追求は、ディテールにも及ぶ。たとえば窓と窓枠とのフラッシュサーフェス化(面一化)。段差をなくすために、ドアの設計をボディ側のつなぎ目から見直した。エアコン吹き出し口のフィンは、見た目の繊細さと十分な強度を両立させるためにマグネシウム製の固定式とし、奥に風向きを変える可動フィンを設けた。またオプションとして切子ガラス調の装飾など、匠の技をいかした装飾を用意。そこから感じられるのは開発陣の「日本人が誇りに思えるクルマにしたい」という思いだ。

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